岡山大学 鈴木研究室

Research研究内容

Research.02

次世代食品・化粧品に向けた 微粒子材料開発

空気と水や、水と油はそれぞれ簡単には混ざりあうことはありません。互いを混ぜ合わせても、ビールの泡やドレッシングをイメージして頂ければ分かるように、再び二相に分離してしまいます。しかし、私たちの身の回りには、牛乳やマヨネーズ、泡やクリームなど、本来分離してしまう物質が安定した状態で存在する製品が数多くあります。これは、界面活性剤が両者の境界に吸着することによって達成されています。食品や洗剤、塗料、化粧品、医薬品に至る幅広い分野で界面活性剤は活用されています。
当研究室が開発を進めるハイドロゲル微粒子も、空気と水の表面や水と油の界面に吸着し界面を安定化できます。広く実用化されている低分子界面活性剤とは異なり、高分子鎖の集合体であるゲル微粒子はその大きなサイズ故に界面安定化能力が高く、その上ゲル微粒子の変形性や構造を調節する事で、まだ世に見ぬ現象が発見される可能性が多く残されています。

液滴乾燥に伴うパターン形成

皆さんは、机の上についたコーヒーの液滴が乾燥した後に何が残るか観察したことはありますか?決して均一な膜ではなく、液滴のふちが際立った円状の膜が残されていることに気づくことでしょう。これはコーヒーだけではなく、液体の中にナノ粒子・マイクロ粒子が分散したコロイドであれば、同様の現象が見られます(緑茶でも生じます。ただし、研究がコーヒーで行われたからか、コーヒーリング効果、と専門的に呼ばれます)。
これに反し、当研究室で開発したハイドロゲル微粒子を含むコロイド分散液を机に垂らして乾燥させると、コーヒーや緑茶とは異なり、キラキラと虹色に輝く均一の膜が得られます。
この現象に注目し、当研究室ではこの液滴を垂らすという極めて単純な実験を徹底的に継続してきました。その結果、現状での理解は次の通りです。
一般的なコロイド分散液(コーヒーなど)を乾燥させた場合には、液滴の中心から淵に向かうマランゴニ対流によってコロイド粒子が集まり、固定化されるためにリング状の跡が残ります。ゲル微粒子に関しても、マランゴニ対流によって微粒子は淵に向かうのですが、淵では固定化されず、空気と水の海面に移動します。そして柔らかいゲル微粒子は空気/水表面に吸着し、瞬時に大変形して強固に固定されます。つづく水が蒸発する過程において、ゲル微粒子同士は安定な最密充填構造を形成します。その空気/水表面で配列した構造は、水が完全に蒸発した後には机の上に移しとられます。ゲル微粒子が可視光と同程度の大きさである場合、微粒子の規則的な並びが光を干渉し、色素が無くても虹色の輝きを示したと考えています。
液滴が乾燥するプロセスは、何もコーヒー滴が蒸発するときだけではありません。様々な日常生活でみられる「乾く」現象に加え、例えばインクジェットプリンターでの印刷など、広く工業的なプロセスでも重要な現象です。これらの制御に、当研究室で開発するゲル微粒子が、新たなカギとなる可能性が見いだされつつあります。

単一ゲル微粒子の大変形挙動

当研究室で開発した巨大ゲル微粒子を活用することで、空気/水界面にハイドロゲル微粒子が吸着する瞬間の観察に成功しました。高速カメラを用いると、わずか一瞬の間にゲル微粒子がまるで花が咲くように大変形することが分かりました。

ゲル微粒子によって安定化された泡・エマルション

当研究室で開発したゲル微粒子は、実にユニークな特徴を示します。そのうえ、上述した界面におけるゲル微粒子の特徴的な挙動を活かすことで、あらたな泡・エマルションが形成されます。
一例として、水も油も好きなやわらかいゲル微粒子(ナノコンポジットゲル微粒子)を活用すると、水だけが大好きである従来のゲル微粒子とは異なり、さまざまなエマルション(油中水滴型や水中油滴型など)を形成することが可能となりました。

こうしたハイドロゲル微粒子の界面に吸着する性質は、あたらしい食品や化粧品、医療材料などを創出する可能性を秘めています(実用化研究は企業と共同研究実施中)。将来、皆さんの身近にも、ハイドロゲル微粒子が利用される製品が多く存在することになると確信しています。